昔の人の睡眠生活とは
酒井忠勝(空邦)の家臣で草野文左衛門という人物についても、このような伝があります。
この人物もまた、れっきとした酒井家の藩士でありながら、なかなか夜着をつくるゆとりがなく、ありあわせの綿入布子をひっかけて寝ているしまつでした。
しかも、ようやくのことで作った夜着というのが片袖夜着という、夜着と蒲団とをそれぞれ半分ずつ繋ぎあわせて一枚にしたような寝具でした。
袖を片方だけつけておいてこれを上にひっかけ、のこった半分をぐるっと身体に巻きつけて下に敷くのです。
いわゆる「かしわになって寝る」ことを前提にした戦時用の夜具であったといいます。
太平の世が続くと、人は枕を高くして仰向けになって寝ます。
つまり大の字になって寝ることに不安を感じなくなるようです。
平安末期いらいの絵巻物などに散見された寝室のありさまを垣間見ても、横向きに臥(ふせ)っている場合が多いのであって、大の字になって高いびきといった風俗は少ないですね。
まして戦国の世の武士ともなれば、いざという場合にそなえて、右手の自由を損なわない寝方のくふうぐらいは心得ていたものでしょう。
ここにいう片袖夜着も、その辺の考慮を加えたものであったと想像されます。